サテライト企画

サテライト企画

第33回 日本神経回路学会全国大会 サテライトシンポジウム
「理論と実験の融合のための神経科学チュートリアル」

◆日程:2023年9月3日(日)

◆会場:東京大学 本郷キャンパス 医学部教育研究棟13階第6セミナー室

◆参加登録:会場の定員に達しましたので参加登録受付は終了いたしました。(8/16更新)
以下のwebフォームより事前登録をお願いいたします。
webフォーム
・締め切りは8月上旬ごろを予定。当日参加はできません。本大会の参加登録とは別ですのでご注意ください。
・セミナー室の感染症対策時定員の都合で、参加登録が定員を超える場合は抽選とさせていただく場合がございます。

◆参加費:チュートリアル参加費は無料。懇親会参加費は有料(学部生・大学院生3000円、それ以外5000円程度を予定)。

◆テーマ:【理論と実験の融合の促進】
神経回路学会本大会の前日に関連各分野の講義を行い、自分の専門以外の分野への理解を深め、大会のテーマの一つである理論と実験の融合を促進するため、チュートリアルを開催いたします!各講師の先生の専門分野について、入門的内容から始めつつ、最先端の研究の話も交えてご講演いただきますので、皆様ぜひご参加ください!

スケジュール

開始・終了時刻や講演順はこれから前後する可能性があります
10:00~10:05
Opening
10:05~10:50
カルシウムイメージングによる神経活動計測:蝦名 鉄平 (東京大学 大学院医学系研究科)
10:55~11:40
大規模皮質脳波(ECoG):小松 三佐子 (東京工業大学 科学技術創成研究院)
11:45~12:30
トランスクリプトーム解析:尾崎 遼 (筑波大学 医学医療系)
12:30~13:40
Lunch break
13:40~14:25
データベース:中江 健 (自然科学研究機構 生命創成探究センター)
14:30~15:15
多細胞神経活動と行動データの解析:田中 康裕 (玉川大学 脳科学研究所)
15:15~15:30
Coffee break
15:30~16:15
神経符号化:島崎 秀昭 (京都大学 大学院情報学研究科)
16:20~17:05
脳理論:磯村 拓哉 (理化学研究所 脳神経科学研究センター)
17:10~17:55
深層学習:鈴木 雅大 (東京大学 大学院工学系研究科)
18:00~18:10
Closing
18:30~
懇親会 (本郷三丁目駅近くを予定)

主催

学術変革領域(A) 予測と行動の統一理論の開拓と検証
学術変革領域(A) 行動変容を創発する脳ダイナミクスの解読と操作が拓く多元生物学
学術変革領域(A) 神経回路センサスに基づく適応機能の構築と遷移バイオメカニズム

本イベントは第33回 日本神経回路学会全国大会(9月4〜6日)のサテライト企画として行われます。
興味深い企画が目白押しですので皆様ぜひ本大会にもご参加ください→登録はこちらから

サテライトに関するお問い合わせ

学術変革A統一理論 事務局→連絡先
Web問い合わせフォームの題名に「神経回路学会サテライトについて」とご記入ください。

講演者&アブストラクト


蝦名 鉄平

東京大学 大学院医学系研究科

カルシウムイメージングによる神経活動計測
カルシウムイメージングは細胞内に導入したカルシウムセンサーから生じる蛍光強度の変化を検出す方法で、異なる計測機器を使用する事で様々なスケールの神経活動を計測する事ができる。 例えば2光子励起顕微鏡を利用したカルシウムイメージングでは単一細胞レベルの空間解像度で多数の神経細胞の活動を同時に計測したり、単一の樹状突起や軸索終末から神経活動を計測したりする事もできる。 また部位特異的組み換えの技術や逆行性/順行性に感染するAAV技術をカルシウムイメージングと組み合わせる事で特定の細胞種や特定の領域に投射する細胞集団特異的に神経活動を計測する事も可能になっている。 本講演ではカルシウムイメージングによる神経活動計測について、実際にどのような計測データが得られるのかを中心に、霊長類における最近の動向と合わせて紹介したい。

小松 三佐子

東京工業大学 科学技術創成研究院

大規模皮質脳波(ECoG)
近年の計測技術の発展に伴い、実験により得られる神経活動は多様化・大規模化しており、それらの実験データを基に脳内の情報処理を明らかにするためには理論研究と実験研究の密な連携が求められる。 本講演ではそれらの融合的研究を促進するため、特に我々の開発した大規模皮質脳波に焦点を当て、1)皮質脳波が脳内のどのような物理現象を捉えているのか、2)基礎的なデータ解析手法、について概観する。 また、Neurotycho Project (neurotycho.org)やBrain/MINDS Data Portal (https://dataportal.brainminds.jp/marmoset-brain-ecog)で一般公開されている広域皮質脳波データを用いた解析例をstep-by-stepで紹介する。

尾崎 遼

筑波大学 医学医療系

神経科学におけるトランスクリプトーム解析
ハイスループットな核酸配列決定技術の発展に伴い、神経科学においてもトランスクリプトーム解析(転写物の網羅的解析)が用いられるようになった。 特に近年では、1細胞トランスクリプトーム計測によって1細胞・1核解像度での網羅的遺伝子発現データが得られたり、空間トランスクリプトーム計測によって一度に多数の遺伝子の空間発現分布データが得られたりと、計測技術の発展が著しい。 しかしながら、このような新たなタイプの計測データの取得や集積により、神経科学者にとって何がどこまでわかるようになるのかは必ずしも自明ではない。 トランスクリプトーム解析は、遺伝子発現量としての特性を活かした多角的なデータ解析やイメージングとの統合により、単に遺伝子のスクリーニングに留まらず、様々な知見や仮説を引き出すポテンシャルを持っている。 本講演では、応用例や今後の展望も取り上げ、トランスクリプトーム解析の重要性と活用法について紹介する。

中江 健

自然科学研究機構 生命創成探究センター

国内における脳科学データベースの取り組み
本発表では、主に発表者が関わった日本における脳科学データベースの最近の取り組みと利用方法を解説する。 データベースは、神経科学の研究成果を広く共有し、再利用可能な形で保存することで、研究の進歩を推進する重要なツールである。 日本では、脳科学データベースの設立と維持に向けて、学術変革領域「行動変容生物学」(https://braidyn-bc-database.netlify.app/)と「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(https://dataportal.brainminds.jp/)などでデータベースの整備を行ってきた。 これらでは脳科学研究データを統合し、標準化された形式で提供することを目指している。 このプロジェクトは、MRI、コネクトーム、遺伝学データ、Ca2+イメージングデータなど、幅広いデータタイプを扱っている。 本発表では、最近論文が公開されたMRIの構造データ、トレイサーによるコネクトームについて解説を行い、さらに今後の機能データにむけた取り組みを一部紹介する。

田中 康裕

玉川大学 脳科学研究所

多細胞神経活動と行動データの解析
TBA

島崎 秀昭

京都大学 大学院情報学研究科

神経符号化研究の歴史と最前線
神経細胞は外界の情報をどのように符号化しているのか?この問いは理論神経科学の歴史の中で長く中心に位置してきた。 多くの実験で少数の神経細胞の記録から動物の行動を予測できることが示されたことから、神経細胞は冗長に情報を符号化していると考えられてきた。 ShadlenやNewsomeらによる洞察から、冗長な情報表現を実現する神経細胞間の相関構造の探索が本格化し、やがてそれはAbbottらによって神経細胞集団に対する最適な線形デコーダの推定精度を議論する線形Fisher情報量を用いた議論へと昇華された。 初期には皮質神経細胞で普遍的に見られる弱い正の相関により冗長な表現が実現されると考えられたが、理論の発展によりこれが誤りであることが認識された。 代わりに情報量は受容野と活動の相関構造の関係のもとに導かれることが明らかとなったが、その後も冗長性を生む相関構造について紆余曲折の議論・混乱があった。 やがてMoreno-Boteらによる決定版「微分相関」が提案された。刺激の変化に伴う神経活動の変化と同じ方向にノイズとなる相関構造があると、情報が必ず制限されるというシンプルな解決策であり、その生成メカニズムも議論された。 2020年代に入ると、イメージング技術の発展に伴い、大規模な神経細胞集団で神経細胞の数と情報量の関係が確かめられるようになり、微分相関の理論も援用して実際に冗長な符号化が報告されるようになった。 しかし、これまでの理論は本当に「正しい」のだろうか。観測結果の解釈に誤りはないのだろうか。最新の我々の知見も交えて、神経符号化研究の歴史と最前線を紹介する。
参考文献 脳科学辞典  神経符号化 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/神経符号化

磯村 拓哉

理化学研究所 脳神経科学研究センター

知覚・行動・社会的知能の理論としてのベイズ力学
生物は、外部環境のダイナミクスを表す生成モデルを脳内に構築することで外界を知覚し、環境に適応するために自分の行動を更新する。 このような自己組織化は、一般に何らかのコスト関数の最小化として定式化が可能であり、コスト関数の勾配は神経活動やシナプス可塑性の方程式を導くことができる。 19世紀にHelmholtzが提唱した無意識的推論の概念は、20世紀末から計算神経科学や機械学習の分野において実装されてきた(Dayan et al., 1995)。 とりわけ予測符号化は、予測誤差を最小化することで内部表現を自律的に獲得する理論として、視覚野をはじめとする脳の情報処理のモデルとして適用された(Rao, Ballard, 1999)。 このような最適化はベイズ推論と呼ばれる統計学的な推論として理解することができる。そこで、ベイズ推論に基づき脳を理解しようとする、ベイズ脳仮説が提唱されてきた(Knill, Pouget, 2004; Doya et al., 2007)。 これらの脳理論を発展させ、Fristonは脳の統一理論として自由エネルギー原理を提唱した(Friston et al., 2006; Friston, 2010)。 自由エネルギー原理によると、生物の知覚や学習、行動は、変分自由エネルギーと呼ばれるコスト関数を最小化するように決まり、その結果、生物は変分ベイズ推論を自己組織化的に行うとされる。 特にベイズ推論に基づく行動制御・意思決定は能動的推論と呼ばれる。 近年では、これらの主張は、外界と疎結合するいかなる力学系も外界のベイズ推論を実行していると解釈できるとするベイズ力学へと発展している。 これらの脳理論のアイデアについて、できるだけわかりやすく紹介したいと思う。

鈴木 雅大

東京大学 大学院工学系研究科

深層学習
TBA